水@台湾にて

  • 「ぐおー、いてててて」

ここ数日、腹痛が襲い待ったなしの状況が続いている。新興園で生活を始めて2日目から症状が出始めたのだが、「まぁ、慣れない土地に行くと、よくある話だわ」と軽く考えていたが、こう連日となると不安になる。腹痛なので、口から入った物が原因ではあるのだが、それにしても酷い。仕事にも支障が出るぐらいで、食べるのが怖くなる日もあった。

  • 「何なんやろな」
  • 「箸も皿も熱湯消毒してんのに・・・」
  • 「熱湯が足らんかったんやろか・・・」
  • 「ぐおー、いてててて」

工場のみんなは交互に言ってる。

  • 「日本は綺麗すぎる、だから抵抗力が無いから身体が弱い」
  • 「ふざけるな、御玉(みたま)の国をなんめんな・・・いてててて」
  • 「白湯を入れてきたから飲んだら、ここに置いとくね」
  • 「ありがとー、ぐおー・・・」
  • 「病院連れて行ってあげようか?」
  • 「行かないー、暫く様子見てから考えるー・・・いてててて」

この時はまだ台湾語が話せないので、工場にいる通訳者を介しての内容。通訳者がトイレの外で立ち、その周りに工場のみんなが集まっている。もちろん私はトイレの中。何とも滑稽な状況である。

日本を発つ前に、「水には気を付けるように」と言われていたので、気を付けていたつもるだったのだが・・・。で、もし腹痛に襲われたら、「慣れるまで頑張れ」と言われた。

  • 「くっそー、ここまでとは思いもしなかった・・・いてててて」
  • 「とりあえず落ち着いたら薬飲んどこう・・・いてててて」

かれこれ15分ぐらいの戦いを終えて、すぐさま錠剤を飲む。でも、30分後にはまた戦いが始まる。3倍のスピードで来られると休む暇もない。こんな状況が1週間続いた。トイレに行くたび「行きます!」と言っていたもんだから、工場のみんなもトイレに行く前には「去●!(行きます!)」って真似する始末。「お前ら後で覚えとけよ!」って言えないから、心に叫んでた。

しかき、異国の地で、こんなことが起きるとすごく不安になる。挙句、つい悪い方へ考えてしまう。それだけ酷い腹痛なのだ。

  • 「ほんまに水が原因なんやろか・・・」
  • 「産まれてくる子供に会えるんやろか・・・」
  • 「ララァのところに行くのか?・・・」
  • 「このまま台湾で永遠の眠りについてしまったらどうしよう・・・」
  • 「緊急帰国したほうがいい?・・・」
  • 「まじかー!、勘弁してくれー・・・」

頭の中をぐるぐるめぐる弱気な言葉。これに匹敵するかのような軟なお腹。これではあかんと手でお腹を撫でながら冷静に事を分析してみる。

  • 「日本人は皆こんな感じなんやろか・・・」
  • 「入院するぐらいの腹痛が発生するときがあるとか聞いてないし・・・」
  • 「食事の後に痛みが襲うから、やっぱり食あたりか水あたり?」

いろいろ考えてはみたものの、これといって腹痛を和らげる策は見つからない。とりあえずは、「トイレに座って給料をもらうやつ」とか言われたくないので、いつまでもトイレに籠っている訳にはいかない。

  • 「とっとと出よう」
  • 「そんで、とりあえず今日の昼飯はやめておこう」

至って簡潔な答えしか出せなかったが、悪い頭をフル回転して出した最善の答えでもある。原因が「水」だとすれば、これで先ずは腹痛が止まるはずだ。米、野菜、魚、肉、美味しく調理するためには、「水」を使わないといけないからだ。

昼のチャイムが鳴ると、工場で働いている約200人は一斉に食堂へ流れ込む。外で済ましてくる人もいるが、70%にあたる約150人は食堂で済ましている。私もその内の一人だが、私はあくまでも自社製品の製造管理責任者として出社しているので、この工場では得意先の立場。なので、自社製品が製造されていない場合は出社しないことになる。

出社しない日があるからといって、一日中新興園で寝ているわけではありません。製造管理している工場は他にも数工場あるので、適時周回しながら状況を確認しているのである。

この腹痛は、恐らくこの神岡工場が原因ではないかと思っている。何故なら、台中に入って3日目からこの工場の賄しか食べてないから。今日で6日目であることを考えると、間違い無いと断言できる。

かといって、「水を替えてくれ」とか言える訳でもない。一日3食、親切にして頂いている分、感謝しないといけない。だから、何も言えない。

とりあえず、チャイムが鳴ると工場の外に出てみた。食事の時間に食事をしてないと、余計な心配をかけることになるので、散歩をしながら台湾人の観察と単語の勉強。彼らは何を食べ、何を飲んでいるのか。この単語は何を指し、何を意味しているのか。そして、何よりも、「腹を壊しているやつがいるのか」がどれだけいるのか知りたい。

神岡工場の周辺には食堂が多い。一店一店見てみると、「衛生的に問題あり」が共通した答えだと思う。日本でも、お箸の使い捨ては当たり前だが、お皿やお椀の使い捨てが多いのはどうなんだろうと。確かに洗う手間は省けるのだが、大きなビニール袋にわんさかと捨てられたお皿やお椀にハエが群がるのはいただけない。ビニール袋の口を2か所ほどガムテープで壁に留めて、口の手前はだらーんとなっている。捨てられたお皿やお椀がどんどん増える。口の手前をちょっと持ち上げたらまだ入るのにそれをしない。で、最後は溢れて流れるように床に転がって行く。まだある。転がっているお皿やお椀を客が踏んでしまうもんやから、店の床は汚くなる。

でも問題はここでは無い。いや、これはこれで問題だけど、決定的な瞬間を見てしまったのである。この店は店先で調理し、客はその奥で食事をするタイプの店。店主が「ゴォー」と中華料理特有の火力で中華鍋を振っていた時のことである。大きな水色のポリバケツに玉杓子を突っ込んで中華鍋に「水」入れている。ポリバケツにホースが突っ込まれていたので、ホースの反対側は蛇口に繋がっているのだろう。ポリバケツに溜まっている水は少しづつ溢れているので、常に満杯状態。そしてこのホース、ポリバケツから床に落ちたりしてるのである。店主が履いている白い長靴の横に「コロンッ」と。

  • 「うぉ!おっさんホース踏みよった!」
  • 「ありゃ!おっさんホース入れよった!」
  • 「うっひょー!おっさん中華鍋に水入れよった!」
  • 「何、何なん、ええのん」
  • 「いや、客に出しよったわ!」
  • 「ええんかいな!これが正解やったんか!」

店の斜め前にある大きな樹にもたれ掛けながら、興奮状態で一つの答えを出した。トランス状態に近い状態になっていたと思われる私は、その光景をしっかりと脳に保管し、とぼとぼと工場へ戻って行った。

  • 「賄いもあんな状態なんやろか、これは日本人にはつらいな」
  • 「晩飯お土産にもらっても、あんなん見たら食べられへんしな」
  • 「断るのもできへんし、どないしよう」
  • 「あかん、お腹痛くなってきた」

確かに、日本の水道衛生設備はかなり高度な水準であると言えます。蛇口から出る水を飲めるの国はそうそう無い。この知識は持っていたので覚悟はしていたのだが、人的原因が絡むと別の問題になってしまう。

さて、どうしたものか。「賄いはそうではない、また別の理由があるはず」と思いながらも、脳に保管した画像が出てきてしまう。

  • 「でもまぁ、あんな店を選ばんかったらええだけやから問題無し」
  • 「じゃぁ、賄いはどないしたらええやろなぁ」
  • 「言葉の勉強や言って、外に出るか、それやったら昼の賄はOKやな」
  • 「朝も同じにしよ、新興園で朝から勉強やわ」
  • 「夜はどうしよう、そや、新興園の連中と言葉の勉強を兼ねて食事するとかにしとこう」

今日の1日で出した結論。賄いから逃げているだけのような気もするが、今は3倍のスピードでやってくる恐怖の大王から早く逃げたい一心である。

  • 「ごめんよララァ、ララァのところにはいつでも行けるから」

そんなことを思いながら、「今日は要りません、友達と食事をします」の台湾語を調べるのであった。

●:口へんに巴


投稿者: るかわ はやお

編集者の流川駿(るかわはやお)です。 長年、商品の広報や販促編集に携わり、現在はセールスライターとしてWEBに特化した記事制作とその指南活動をしています。